阿蘇山
  2003.11.9〜10
    
   峠道からの展望

JASのウルトラ割引のチケッが取れたので12日で九州へ行く。このチケットだと運賃が約1/3だから何とか出かけられるが、もう一般の航空運賃では馬鹿らしくて乗れない。熊本空港から予約したレンタカーで阿蘇へ向かう。行く手に外輪山の山並みを垣間見つつ、インターネットで予約した民宿を目指して走る。土曜日の夕刻なので国道57号線は熊本市内へ向かう反対車線が渋滞している。この国道が混むことは、以前祖母山に登ったときに地元の人に聞いたことがあった。明日は我が身だから、空港へ帰るルートはこの国道以外の道を探さなければと思う。阿蘇の広大な火口原を貫き大分へと通じている国道を進むと、いつしか外輪山の間を抜けて明日登る予定の高岳などが右に見えるようになる。山々はやはり冠雪をしていて、山全体の半分ほどにも白い部分が見え隠れしている。2日前日本列島を寒波が覆い、11月上旬としては稀な降雪が全国的に見られたようだ。九州にも降雪があったというニュースは聞いていたが、ここまで降っていたとは以外だった。ロングスパッツはもちろん持参したが軽アイゼンは“まさか”と思ったのでおいてきた。積雪はたいしたことはないだろうが、この寒さでは凍結するかもしれない。そんな心配をしているうち、山はもう夕闇に包まれ始め、シルエットとしてしか確認できなくなった。インターネットで、安いという条件で予約した宿は食べ放題の焼肉中心の食堂で、風呂などひどいものだったが、ひとりだからかえって落ち着いた。夕食も肉のお変わりするほどたっぷり食した。


頂上駅が見える



稜線に取り付く

立派な道標

広々とした火口原
 翌朝、まだ宿の人が起き出す前の薄暗闇の中を仙酔峡へと出発する。道はわかりやすかった。進むうち道路が曲がりくねって勾配が急になり、そろそろ着くと思っていたら白く大きな建造物が目の前に現れて驚いた。新興宗教系の仏舎のようだ。すぐに仙酔峡ロープウエー駅に着く。駐車場は広いが、車は他に1台だけである。車を出ると気温が低いようでヒヤッとする。予想以上に険しい様相の山肌がぐっと近づき迫力がある。曇天で稜線はガスに覆われ、なかなかすっきりと全貌を現さない。雪はついそこらあたりまで残っていて、稜線近くは真っ白に見えるが支障があるほど積もってはいないと思う。上のロープウエー駅が小さく見え、その下を登山道が続いているのがわかる。辺りはミヤマキリシマであろう、丸くまとまってかたまりになった小潅木が一面に密に点在する。ここ仙酔峡はこの花で有名なようだ。

虎ヶ峰に鷲ヶ峰

ガスで展望が悪い



立派なツララ
 登りは向かって左側の尾根の道を行くことにする。特に上部がかなり急登に見える。小さな沢を越えて尾根に取り付くと、道はさすがに火山岩に敷き詰められ、火山礫だけの地面ではないので登りにくくはない。ところによって赤くなったり黒くなったり様変わりする。尾根は結構痩せていて、大きな岩がところどころにあるため、それを乗り越えたり巻いたりして行かねばならない。登るにつれて雪がだんだん多く残っているが歩きにくいほどではなく、凍ってもいない。下の駐車場でも気温は低かったが、尾根上は風がとても強く、体感温度は零下10℃を下回っているのではないかと思うほどだ。見下ろすとロープウエーの下の道はとても整備されているようで道幅も広く見える。こちらは普通の登山道で赤ペンキや木の杭が道標になっている。

岩盤の間を道が続く







九重連山が覗く
 立ち止まって景色を見るくらいで休憩も取らずにゆっくりと登っていくと、勾配はますますきつくなるようだ。左手の稜線は虎ヶ峰、鷲ヶ峰と呼ばれ、ギザギザに鋭く切り立つ迫力のある岩稜が連続して高岳に向かっている。後で聞くと中部山岳に比してもロッククライミングでは有数の難場だそうである。歩いていて行く手の見通しが悪い場所では、まるでその岩稜に向かって進んでいるような印象を受けて不安になる。次第に雪のつき方が増え、潅木や岩に“えびのしっぽ”が付着して本当に冬景色になってくる。まさか阿蘇山でこんな経験をするなどは夢にも思わなかった。雪は吹き溜まりでも足首にも達しないほどなので歩行に支障はなく、空はどんよりと暗鬱ではあるが、岩と樹氷と濃霧が織り成す神秘的な美しい様相は滅多に体験しないものだ。大きな氷柱ができているところも何箇所かあった。稜線近くになると道の行く手が岩の壁に見えるところがあり、ちょっとびっくりするが、簡単に通過できる道筋がちゃんとある。


山頂が近い

山頂稜線へ出る

反対側は平原状

幽玄な展望風景
 稜線に出ると反対側は20mほど下が平坦な火口原になっていて、その一角に避難小屋も見える。展望はあいにく雲が上がっていて九重山くらいしか望めないが、実にすばらしい景色ではある。稜線はなだらかであるきやすく、少し進むと高岳山頂だった。写真を撮ってすぐに歩き始める。風が強いこともあるが、実は5日前から禁煙を志している最中で、腰を下ろすとタバコを思い出すし手持ち無沙汰なので、休まないでゆっくり歩くことにしている。それに荷物も軽いしきつい山でもない。





高岳山頂




 高岳から5060mも下るともうガスの中に入ってしまう。雄大な風景であろう火口群が見えず残念だ。あいかわらず一人として出会わぬまま稜線をぐるりとロープウエーの方へ辿る。頑丈な防護柵がずいぶんと長く据え付けられている場所へ着く。ここがロープウエー駅から訪れる火口展望台になっているようだ。ここに至ってやっと三々五々登ってくる人々が現れるが、ほとんどが観光客のようである。
 ここからロープウエー駅までは巾が1間以上もある舗装された緩やかな道が続いている。雪が凍って滑りやすいところもあるが立派な観光道路である。ロープウエー駅に着いたが、ロープウエーの次便の待ち合わせ時間と下山時間を見合わせてロープウエーを利用することにした。舗装の道が下の駅まで続いているようだが路面が凍結していて時間がかかりそうだった。ロープウエーで上から見ると、登りに使った尾根の道がずっと見渡せ、かなり険しい急斜面を登ったことがわかる。ロープウエー駅に写真があるのを見てもミヤマキリシマの時期はさぞかしすごい景観なのだろう。
 ロープウエー駅で阿蘇一帯の観光地図を見て、反対側から火口を見る展望台を抜けて縦断するように南へ抜けようと決める。草千里を眺めながら火口の展望台を目指すとさすがに大勢の人で賑わっている。一面の景色は雄大ですばらしい。青緑色の独特の色彩を帯びた火口湖も(売店のおじさんの言うことを聞けばとても珍しく)噴煙の途切れた本の一瞬垣間見ることができた。
 南阿蘇では白川を覗いてみた。3月に大ヤマメが釣れるという里川で、やはり渓相はよい。だから阿蘇にはその釣りも兼ねて3月に予定していたのだが、せっかちな性格がまた出てしまった。
 そこから国道57号線に戻らずに峠越えの狭い道を行くが、途中からよい道になり、峠付近からの展望も素晴らしかった。昼食に熊本ラーメンのうまいやつを食べたかったが、熊本市内にある有名店へ往復するには時間が足らないので空港までの沿線にある店へ入った。そこは込み合ってはいたが、人気があるという野菜ラーメンはレタスが載っている奇をてらっただけの食感の悪い、私にとっては「はずれ」といってよいものだった。口直しに筋向いの九州トンコツラーメンへ入ったら、これがすばらしくうまかった。

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