南八ヶ岳縦走 
硫黄岳(2760m)/横岳(2829m)/阿弥陀岳(2805m)/権現岳(2715m)

10/28〜10/30

 いわゆる南八ヶ岳に登ったのは30年近く前、学校を卒業して就職した翌年にK君と赤岳に行ったときだった。K君も私も南は初めてだった。テントを持って行って1泊したと思う。記録などとっていなかったから、どのコースを行ったか、どこにテンパったかもすっかり忘れている。今回計画したのは、標高百名山(百高山というらしい)に挑戦してみようと思い立ってのことだ。深田百名山を終わってからの山登りに緊張感がなくなり、やはり目標がないと意欲というか「やる気」が減ってきたのを自覚したこともあるが、私より10歳以上も年上の先輩が、お一人は百高山をつい先日完登し、もうお一人はそれを目指して登っているというのを聞き及び、私もその年齢になるまで元気に山を登っていたいものとつくづく思ったからだ。しかし百名山と違って当然険しい山も多く、自分にとっては困難な山行となるであろう。目標を5年間と決めてやってみるつもりだが、どうなることか何とも不安がよぎる。


南八ヶ岳主峰部、左から横岳、赤岳、阿弥陀岳

1日目 】 自宅5:30==茅野駅10:20=(バス)=美濃戸口11:1211:30
           赤岳山荘12:20分岐の橋13:1014:00赤岳鉱泉14:50 

 自宅から鈍行電車で茅野駅へ行き、バスで美濃戸口まで入る。山歩きの人は私を含めて3人の単独行者だけだった。二人に遅れて出発すると、赤岳鉱泉までほとんど一人きりの静かなハイキングだった。確かにここを通ったはずだが、道にも、赤岳山荘や美濃戸山荘にも全く覚えがなく、30年にならんとする月日はさすがにあらかたの記憶を消してしまう。今かすかに思い出せるのも赤岳頂上付近の様子だけだ。赤岳山荘のところで赤岳だろうか、険しい山容が望めた。道が沢コースと増水したときにとる巻き道コースとに分かれる分岐の橋で昼食にする。天気は上々で、盛りをとっくに過ぎた紅葉と青空がまぶしい。ここから沢コース(確かに増水時には通れなくなるだろう)をとったが、昼飯に水と間違って日本酒を3割ほど入れたお湯をカップラーメンに使い、それでコーヒーも飲んだので、たいした量でもないのに足がふらつく感じで参った。赤岳鉱泉には3時前に着いた。赤岳から横岳の岩峰が見渡せる。横岳の大同心が威容に聳える。先週降ったものなのか、雪がまだらに残っている。歩くには支障はなさそうだ。赤岳天望荘もはっきり見える。風呂に入ってビールを注文し、小屋の外のテーブルでのんびりする。風呂はぬるくて、石鹸も使用禁止だが、山の中では贅沢な代物だ。少し寒かったが持参した日本酒500mlを全部飲んでしまった。山はアーベントロートとは云えないものの、山頂だけに残照が輝き、明日への期待が募る。客は男の単独行3人だけで、静かなものだった。その一人は下って来た人で、やはり天気はかなりよかったようだ。明日は曇り一時雨の予報だが、急変するとは思えなかった。


美濃戸口登山口

赤岳だろう、険しい山容が望めた

美濃戸山荘
ここで行者小屋への道と分かれる

稜線の紅葉は終わっているが
中腹はまだ名残がある

沢コースと山コースの分岐
ここで昼食を摂る

荒々しい岩肌の稜線が
樹林越しに見え隠れする

ナナカマドが葉をすっかり落として
鮮烈な赤い実が際立つ

赤岳鉱泉に到着
横岳の大同心が威容に聳える

赤岳鉱泉の玄関前から赤岳

稜線はうっすらと雪をまとい
天望荘もはっきり見える


2日目 】 赤岳鉱泉7:05硫黄岳8:30−硫黄岳三角点8:35硫黄岳小屋8:559:05横岳9:40
       地蔵尾根
10:20赤岳天望荘10:30赤岳頂上小屋11:3012:00阿弥陀岳13:0013:10
       ―赤岳頂上小屋
14:30

 消灯時間が9時なので、昨夜はなかなか寝付けなくて困った。でも朝食は6時なので睡眠時間に不足はなかった。天気はそれほど悪くなっていないが、風の吹き具合が下り坂を予感させる。普段は食べない朝飯をしっかりとって硫黄岳に向かう。中腹まで登ると赤岳・阿弥陀岳の大きな山容が見渡せた。すっきりと晴れ渡って見える。しかし、硫黄岳に到着する少し前から雲が急に上がってきて、森林限界を超え稜線に出るとすごい風が吹いていた。硫黄岳は風を避ける場所もケルン以外になく三角点へ向かう。硫黄岳の北側は深く落ち込んでいて、突風が吹くので崖際には近寄れない。北に天狗岳から続く北八ヶ岳が蓼科山まで見渡せるが、空はいつの間にかどんよりと黒い雲にあらかた埋め尽くされていて寒々しい。三角点は最高点より緩やかに下った北側にあり、訪れる人も少ないかもしれない。道に戻る頃には南の稜線も全体がすでに雲にすっかり覆われてしまっていて、風が益々強くなり、雨は小雨というべきだろうが、強風に飛ばされて横殴りに顔を打つ。硫黄岳山荘で風を避け一休みする。さすがに寒くもなったので、ここで厚手のシャツを着、上だけ合羽を着て身づくろいをする。硫黄岳山荘から先は、私が今まで経験した最強の風だと思うほどで、気を付けないと本当に突風によってこの重い体が持っていかれる。稜線の狭く切り立った場所は慎重に進んだ。風に抵抗しながら歩くので倍以上は体力を使うみたいで疲労が溜まってくるのがわかる。つづらに登るときに風に向かうのとその逆ではかなり違う。雨粒が砂のように顔に当たり、風上側の耳に雨水が入り込んできて中耳炎を心配するほどだ。晴れていれば快適な岩尾根歩きだと思うが、ただひたすらに歩き続けるしかない。横岳も地蔵尾根の地蔵も赤岳天望荘も写真を撮っただけで通過し赤岳の登りに入る。ここまでに他の登山者とすれ違ったのはさすがに数えるほどだった。赤岳頂上小屋に入り、土間で菓子パンをひとつ口にし、不要な荷物を預けて阿弥陀岳に向かったが、権現岳への道標はあったが阿弥陀岳へのそれが分からず小屋に引き返して小屋の若い衆に確認する。若い衆も外に出て様子を見、「やめたほうがいいですよ」とでもいうような態度であった。天候は益々悪化しているようで、この中を往復3時間もかけてピークを目指すのも馬鹿らしいが、百高山を目標とした最初から頓挫するのも癪だから奮って出かける。結局分岐の道標のうち阿弥陀岳を示す板がはずれていただけだった。昭文社のコースタイムを上回ったわけではないのだが、阿弥陀岳までは長かった。雨粒はさほどでもないので合羽の下ははかずに歩いたらハイマツのせいでズボンが濡れてしまい、用心が足りなくて失敗した。復路で足を滑らせて転倒した時は、びっくりして立ち上がって捻挫や骨折がないことにほっとした。この天気でこの時刻では誰も通るわけはないと思ったからだ。赤岳の登り返しは気が滅入っているからうんざりするほどの忍耐だった。赤岳頂上小屋に戻って濡れた服などをハンガーに吊るす。温風器をつけて乾かしてくれるようだ。宿泊客は20人ほどいた。今年最後の営業日で小屋を片付けるためか従業員は多い。食事前にビールと日本酒を買い、食堂で茹でたウインナーをつまみに満足感に浸った。今日も大部屋に余裕で寝られるので快適だった。消灯は8時だったが今日はさすがに早くに寝付けた。

2日目の出発時、赤岳鉱泉前で

大同心

横岳から赤岳

横岳、赤岳、阿弥陀岳


北八ヶ岳

硫黄岳頂上

北八ヶ岳の峰々

硫黄岳三角点

硫黄岳山荘、ここで昼食
ここからひどい風に見舞われた

横岳山頂
強風の中、通過するのみ

地蔵尾根の地蔵

赤岳天望荘
風力発電機が大回転

赤岳天望荘

赤岳頂上

阿弥陀岳頂上

3日目 】 赤岳頂上小屋6:30―キレット小屋7:35−ツルネ7:508:00―権現岳9:10

9:30―三ツ頭10:00―前三ツ頭10:2510:35天女山12:0512:15JR甲斐大泉13:05JR甲斐大泉13:38=(佐久廻り)=北越谷17:44                   

 昨日の天気が信じられないほどの好天になった。雲海が広がり、富士山から南・中央・北アルプス、奥秩父連山がすべて見渡せる。北アルプスは真っ白になっている。まだ空気に乱れがあるのかそれほどクリアではないが、久しぶりに見た大パノラマだ。今日の目標の山、権現岳の山容が正面に大きい。キレット小屋への下りは急峻で歩きにくいガレ場だ。岩場を下り終えて見上げると、よくこんなところをと思わせるほどの、まさしく崖に見える。これに比べてキレット小屋のある鞍部はなだらかで樹林帯に入ったところだからほっとする。後立山八峰キレットのキレット小屋とはイメージが大違いだ。ツルネで一休みしていると20人以上の中高年パーティが登ってきた。前原山行会クラスの年齢層だが、あの権現岳の長い梯子を降りてきたのだから経験者揃いなのだろう。その63段の梯子は、聞いていたよりはるかに迫力があり、はるか見上げるような感じにそそり立っていた。登っている途中もさすがに気持ちいいものではなく、これだけ長いと休憩を入れたくなる。上から見るともっと凄まじく、下るのはちょっとビビッテしまう。権現岳山頂はそこからすぐだった。と思いきや、そこからすぐ先に見える、オベリスクのような岩山が頂上のようで、登れるらしいので行ってみると、遠くからは無理だろうと思っていたら実に簡単だった。人は今までのどこよりもたくさんいて、どうやら観音平から編笠山下の青年小屋経由で来ているらしい。素晴らしい展望はまだまだ続いていて、久方ぶりに思いきり堪能できた。下りは長くて辛いかも知れぬと思ってきたが、意外に順調に時間が過ぎた。急な下りはノット付の虎ロープが張ってあり楽だった。手白の「善道」に使えると思う。途中からだらだらの尾根歩きが続き、天女山から足を伸ばしたと思われるハイカーが数組登ってきた。天女山には大きな駐車場があり人も出ていて、登山服姿が気恥ずかしいほどだ。甲斐大泉駅までは、車の通行の多い観光道路の歩道を行くロードで、やはりうんざりした。大泉駅から佐久廻りの電車を選ぶ。小海線の沿線は素晴らしい紅葉だった。予定よりもだいぶ早い電車だったので、まだ明るいうちに自宅に着くことができた。


赤岳頂上小屋

北アルプス

槍や穂高はすっかり雪化粧

中央アルプス
南アルプス
笠富士

中央から南

北八ヶ岳、遠くに浅間山



阿弥陀岳


権現岳と南アルプス

赤岳頂上小屋をあとにする

ガレ場を下り終える

ツルネから

権現岳まではあと少し

名物の63段はしご

下りはちょっとビビル

権現岳頂上

権現頂上から

赤岳と阿弥陀岳、中央に硫黄岳と横岳

権現頂上と富士・南ア

編笠山と中ア、青年小屋も見える

南アが近い

前三ツ頭から三ツ頭
前三ツ頭で雲が上がってきた やっと天女山に到着