白根南嶺
2007.10.4〜8


 
白根南嶺という美しげな名称といい、幕営しなければ容易に歩き通せぬコースであり、その道の人跡が少ないこともあって、「いつの日か...」と憧憬を抱く峰であった。同じ思いの大先輩おふたりと同行する僥倖に恵まれて、私の山歴に大きく残るであろう、山中34日の素晴らしい山行をすることができた。

104(木)
 
静岡駅で天野・市川両先輩と待ち合わせ、天野先輩の車で畑薙ダムへ向かう。平日だからであろうが、広い駐車場には十数台ほどの車しかなかった。ダム手前の決壊していた道路の工事がほぼ終了していて通行でき、東海フォレストの送迎車のバス停はすぐ近くにあった。時間があったので共同装備の分配をする。バスには10人ほどだったが、椹島ロッジで乗り換えると、二軒小屋へ向かうのは我々3人だけだった。下山時に宿泊予定のロッジに着替え等を預かってもらい、本日の幕営場所である転付峠へ登り始める。市川先輩(隊長)がトップ、私(平隊員)、天野先輩(リーダー)の順である。とても歩きやすい道で、古道を偲ばせる雰囲気がいい。2時間で稜線に出ると、まさに林道跡がある。トイレもあり、それほど汚いものではない。幕営の準備にかかって一人用のテントがないことに気づく。バス停に置き忘れたか、二軒ロッジに預けた荷物の中か、誰が忘れたのかわからない。仕方がないので多少窮屈だが3人用のテントに3人寝ることにし、シートとフライは絶好の荷物置場となる。新倉方面へ5分ほど下って水を汲んでくる。天気は曇り、明日の好天を願ってテントに入る。夜中に少し雨が降った。

105(金)
 
朝食をとって水を汲みに行くと、素晴らしい富士山が迎えてくれた。この地点からはとても大きく見え、翌日、笹山辺りから見た富士はかなり遠く小ぶりに見えた。奈良田越までは林道歩きである。林道とはいっても既に廃道になって久しく、崩壊してガレ場になっているところもあるし、道いっぱいに生えたシラビソやツゲの若木がもう背丈の倍ほどになっているものまである。しかし古街道という雰囲気が満ち満ちていて味わいがある山歩きだ。奈良田越で林道を離れ、作業小屋跡裏から山道となる。ずっと樹林帯で、踏跡はしっかりしているが、覆いかぶさる枝を掻き分けて、ところどころにある赤布(赤テープ)を見つけながら進むことが多くなる。樹林帯を抜けたところが何箇所かあって展望台となる。天気は上々で、歩き始めには徳右衛門岳くらいしか見えなかったが、歩き進むうちに千枚岳や塩見岳、蝙蝠岳も大きくみえるようになった。この時期の2,000m以上だから気温もひんやりと程よく、暑いと藪が多いので難儀をするだろうが、あまり汗をかくこともない。藪を払いながら踏跡を辿る単調な歩きを続けて、今回の目標三山のひとつ、笹山南峰に着く。広くなだらかな山頂が樹林に囲まれていていいサイトになっている。念のため北峰までサイトを見に行くが、景色はいいが風が出てくると問題なのでここに決める。案の定、その夜はすごい風の音であった。


水場への途中

千枚岳・赤石・聖

笹山はまだ遠い

廃道となりつつある林道

草紅葉が行く手を彩る

来し方を振り返る

笹山南峰、ここで幕営

106(土)
 笹山北峰からは視界が開け、岩が多くなって高山の様相となる。同時にウラシマツツジなどの草紅葉が見事である。山肌はまだほんのり程度で、本格的な黄葉までは23週間はかかりそうだ。独標2813は白河内岳というが、広河内岳と混同して話がかみ合いにくいので自然と「ハクコウチ」と呼ぶようになった。そのハクコウチは踏み跡が大きく山頂を巻いていたが、山頂を踏むか踏まぬかで21の多数決で省略。大籠岳はいくつもあるピークのどれかを確かめながら着いた。東側を見れば地形で簡単にわかったのだが、百高山だから踏み損ねたらえらいことだと慌ててしまった。「ハクコウチ」を過ぎたあたりで天野先輩がこちらへ向かう登山者を発見したが残りの二人には見えないので、賭けになったが、休憩中に単独行者が本当に現れて大笑い。広河内岳がすぐ目の前に大きい。その後ろの濃鳥岳はもっと大きい。今回の目標である3座の百高山の最後の展望はすばらしいものだった。ここで今回のコース最後のふたり目の登山者を山頂に迎えて池の沢に下る。黄ペンキやケルン、青テープを確認しながら踏み跡を辿る。池の沢池は静謐で神秘なところであった。釣り人が魚を焼いた跡があり、ひとりきりでなければキャンプにはもってこいの場所だ。ここからのルートファインディングはきついものがあった。倒木や崩れているところが随所にあって踏み跡がたびたび寸断されている。それでも何とか明るく余裕のある時間に出合いに着いた。小屋はじめじめと汚いので幕営にする。


107(日)
 今日は余裕があると予想したから、幕営地を8時に出発。25千図を頼りに林道跡を進もうと、まず1回目の渡渉。水は痛いほど冷たい。林道らしき跡を辿るが川の淵で進めず、また渡渉。林道跡に戻ろうと3回目の渡渉をして、地図の橋のあるところに来るが橋はない。橋があったであろう残骸はあるのだが、その先の道らしきものが全くない。結局また渡渉して河原沿いに進むと、その先に地図にないはずのところに橋が見えた。しかし河原沿いに進むのはかなり危険で、50mほど高巻いて橋に出る。結局、渡渉の度に浅瀬を探したり、山靴を脱いだり、マネージをしたりで、かなりの時間を食ってしまった。その後も林道が崩れてガレをトラバースするところが何箇所あったか忘れるほどあり、二軒小屋ロッジへ着いたのはちょうど5時であった。このコースは登りに使っていればコースが見つかったと思うが、出合から池の沢池までが問題となる。


108(月)
 昨夜は素晴らしいロッジで、風呂にも入り、うまいものを食べ、酒もたっぷりと飲んで、快適なベッドで熟睡した。9時半に車が迎えに来て帰途についた。雨だった。

  標高百名山へ